2000年9月5日施行

第3条

クルマの曲げ方・止め方を知る方法を「ドリフトをマスターすること」と
自動車運転教習所は教えるべきである。


昭和が終わる前に完成した仙台ハイランドレースウェイは峠のワインディングロードのようだ

[体験]

 昭和61年当時、筑波サーキットと富士スピードウェイしか走行経験を持っていなかったため、仙台に新たにオープンした西仙台ハイランドレースウェイ(現仙台ハイランドレースウェイ)は画期的だった。コースレイアウトはアップダウンがあり、一度走ったくらいではとても覚えきれない複雑なレイアウトは峠のワインディングロードを彷佛とさせた。峠ランナーだった私にとって最高に魅力的かつ新鮮だったハイランドには、WARPのメンバー総勢80名くらいで関東から遠征したものだ。確か3度目の遠征の時だったと思う。絶対に晴天を信じた私は当時の愛車だったFC3S初期型のRX-7にドライ専用のSタイヤ(RE61S)を装着して出かけたのだが、仙台は雨だった。小雨であればストリート用スポーツラジアルを上回るグリップ性能を発揮するドライ用Sタイヤだが、路面はヘビーウェット。危険なのは明らかだったが「せっかく遠征したのだから絶対に走る」と虚勢を張り、内心ヒヤヒヤもので走り続けた。仲間とのバトルに熱中するあまり、3速で進入する最終コーナーに明らかなオーバースピードで入った瞬間、テールがスライドをはじめた。アクセルをオ フってもスライドは止まらない。本能的にアクセルでコントロールしたのだと思う。なぜかドリフト状態のまま最終コーナーをクリアしている自分がいた。1速ギヤで8の字ターンの練習をする時にしか経験したことのないドリフト。3速ギヤで、しかもウェット路面でコントロールする自分に酔った。その後の最終コーナーは全てドリフトでクリア。10ラップ以上にわたって一度も失敗しなかった。理由は全くわからない。それでも間違いなくドリフトコントロールが出来るようになっていたのだ。


[検証]

 この話しはすでに雑誌のコラムやドラキンサーキット日記に書いたことがあるので、御存じの方も多いと思う。第3条は「ドリフトをマスターすること」なので、ここでは今までと違ったアプローチでこの事件を検証してみよう。もし私が8の字ターンの練習をしていなかったら、時速100キロ以上のウェット路面コーナリングで、本能的にアクセルコントロールできただろうか? テールがスライドした瞬間に見えたのは最終コーナーイン側のガードレールだった。自走で東京まで帰りたかったから絶対にガードレールキッスは嫌だった。ハイランドの最終コーナーは右コーナーなので、ステアリングは左に切った。このハンドル操作をカウンターステアというが、多くの場合はドライバーの意志とは無関係に「カウンターステアがあたってしまう」もの。第3条の段階ではこの認識で充分。
 検証を続けよう。実はコース幅の広いサーキットだから右コーナーで左にステアリングを切ることも当たり前にできるのだが、もしこれが片側1車線の道路ならどうなるのだろう? 左にステアリングを切るには相当な度胸が必要で、多くの方はブレーキをかけるはずだ。運がよければ何処にもぶつかることなくコーナーの真ん中で止まれる。カウンターステアに必要なのはアクセルコントロールとブレーキングである。右コーナーなのに左にハンドルを切る行為をサーキット走行経験を持たない大多数の自動車運転免許証保持者の方々は発想するだろうか? ほとんどのドライバーはクルマはハンドルを切った方向に曲がると信じて疑わない。


  

[解説]

 ステアリングを切った方向と逆にコーナリングするドリフトテクニックをマスター、いやマスターできなくとも体験するだけでクルマは必ずしもステアリングを切った方向には曲がらないことを知る。18歳になれば誰でも運転免許証を取りクルマを買うことが当たり前になった時代、老齢化が進んでゆく社会で自動車運転教習所が次の段階を考えるのなら「ドリフトマスターコース」「ドリフト体験コース」を開設すべきだ。ドライビングをオートメーション化する技術と双璧を成すのはドライビングテクニックである。「スピードを出すな」という教育だけで、若者の無謀運転による事故は防げるのだろうか? アンチロックブレーキシステムが標準化してゆけば、ブレーキングロックの体験は必要なくなるだろうか? 免許証をとって間もない、運転が楽しくて仕方のないスピード好きな青年が突如高速道路でスコールに遭遇したら・・・ブレーキング中に何の前触れもなくアンチブレーキロックシステムが故障したら・・・
 第3条は結論が見えなくてややこしいね。第100条までには、誰でもスッキリ明解になるように努力しよう。サーキットだけの話ならば楽だけど、サーキットを走ったことのない方、スポーツドライビングを意識していない方には理解が難しい部分がまだまだ多い。紙媒体の原稿執筆の時はネット書き込みの倍の時間を使うので、念のため言い訳しておきましょう。皆伝に大切なのはテーマだから。



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