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ドラテク皆伝 序章(INDEX)

 まだ若葉マークを付けた若かりし頃、後ろを振り返ることなく左右のドアミラーを見ながらバックし、一発で車庫入れする先輩の姿を見てショックを受けた。刑事ドラマの中で見事に決まる180度ターンを見てカッコいいと思った。N1耐久レースにはじめて参戦した時、2時間にも及ぶ連続サーキット走行がこれほど過酷なスポーツである事を知った。「ドライビング」にのめり込み、サーキットで仕事をする事が日常となって、15年目を迎える2000年。確信を持った経験と哲学をまとめてみた。

「男性の仕草で女性が一番ドキっとするのは運転中にバックする時」というアンケート結果がある。助手席に片腕をかけて後方確認しながらバックする仕草。理由は助手席に座る女性が肩を抱かれるような錯覚に陥ること、また後方を振り返る男性の首すじがセクシーなのだという。つまり筆者がショックを受けたミラーバックテクニックでは、女性をドキっとさせられない。しかし、うっとりと彼氏を見つめるはずの彼女の目には、いつまでも車庫入れ出来ずに前進・後退を繰り返す男性の姿がどのように写るのか。
「男性を頼りなく思うのはどんな時?」の質問の中に「車庫入れがなかなか出来ない時」「ドライブ中に道に迷って動揺している時」というのがあるそうだ。やや矛盾も感じるアンケート結果だ。バックミラーを見ながら正確なバックが出来るドライバーの車両感覚をもってすれば、後ろを振り返りながら直接目視でバックするのは容易なこと。つまり彼女とドライブの時だけ助手席に手をかけて、一発で車庫入れを決めればよい。

 刑事ドラマを夢中で見ているときには、サイドブレーキを引いてターンすることなど想像も付かなかった。たまたま友人と出かけた、米軍の横田基地で開催されていたジムカーナ大会ではじめて知ったこと。サイドブレーキだけではない。そこではリヤタイヤから猛烈にスモークをあげながらフルカウンターで立ちあがってゆく510ブルーバードの姿があった。LSD(リミテッドスリップデフ)などという単語は知る訳もなく、FF車オーナーだった自分にとってFR車ならば必ずフルカウンターでドリフトできると信じ込んだ。

「自分はクルマの運転が上手い」と思っている方は意外に多い。クルマの基本性能(特にタイヤとエンジンパワー)が飛躍的に向上した事が、多くのドライバーの錯覚を生んでいるとも言える。これを読んでいただいている運転にこだわりのある方ならば、タウンドライブやハイウェイドライブでは「腕に覚えのある」ドライバーである事は想像できる。それでもミラーを見るだけで車庫入れ出来る方は少ないだろうし、まして自在にドリフトできる方など普通のドライバーでは考えられない。ハイウェイドライブが得意な方でもサーキットが速く走れるとは限らないし、プロドライバーであるトラックやタクシーの運転手が優れたドライビングテクニックの持ち主であるとは考えにくい。一般公道のドライブにおいては、個々のドライバーの経験や持ち合わせる判断力が問われるものだ。
筆者には特別な持論がある。「サーキットドライビングを極めたドライバーはストリートで事故を起こしにくくなる」というもの。単純にテクニックの問題で言っているのではない。動態視力がサーキットドライビングで磨かれること、ドライバーの精神的余力が生み出す的確な状況判断と正確な操作などが理由。それらはドラテク皆伝を読み進める中で順に説明してゆこう。はじめに皆さんに伝えたいこと、それはドライビングを高度なスポーツと認識していただきたい事。

 筆者は今年からドラテク検定なるものをスタートさせた。ドライビングテクニックに武道のような段位を与えようという試みである。ポピュラーなアミューズメントスポーツの例えではスキーが挙げられる。冬季オリンピックでは様々な戦いが繰り広げられるスキー競技。その一方、基礎スキーの技術認定にスキー検定なるものがある。3級・2級・1級_指導員と昇格し、資格者は何処のスキー場でも必ず見かけるスキー学校でスキーヤーの指導が行なえる。同じ事をモータースポーツでも考えてみた。多くの方は、モータースポーツの事を命がけで勝敗を決するリスキーなスポーツと認識しているだろう。しかし実際には、F1を頂点としてテレビ画面で目にするレースやラリーだけがモータースポーツではない。「クルマを運転する」という身近な行為がそのまま趣味のスポーツになり得るのである。クルマを自由自在に巧みに操ること。それはスキー板とストックの関係そのままの、タイヤとステアリングの関係なのである。一部のマニアだけでなく、クルマ好きの多くの方にドラテク皆伝を読んでいただき、ドライビングをスポーツとして再認識願いたい。多くのドライバーが今以上にドライビングテクニックへのこだわりを持てば、またモータースポーツがさらにスポーツとして社会的権威をもてば、暴走行為や交通事故は減少し、21世紀日本のモータリゼーションは大きく変貌してゆくと筆者は確信しているのだ。
ドラテク皆伝では多くのドライバーにとって身近に考えやすいターマック(舗装路)におけるドライビングについてお話しよう。

20世紀最後の年 ドラキン

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