2000年12月26日施行
第9条
モータースポーツと不景気とドライバー評価(その1)
97年ミラージュインターカップ(鈴鹿サーキット)
[レースには経済力が必要である事実を知れ]
ドライビングテクニックを評価する方法は難しい。モータースポーツの世界では、ドライバーの評価は、レースをはじめラリー、ジムカーナ、ダートラ競技などに参戦した結果がすべて。ドライビングテクニックを認めてもらうための前提として実績を求められるのが通例だ。モータースポーツ志向を持つ多くのドライバーは、そういった競技に参加する以前の段階に留まっている。理由は様々あると思うが、全くモータースポーツ競技会に興味がないか、興味があっても参加しようとまでは考えないのだろう。単にキッカケがなかったり、参加方法がわからないまま機会を逸してしまうことも多い。サーキット走行会、それ以前に峠などのワインディングロードでコーナリングに挑むことが今ほどブームになった背景は「ドライビング」がとても楽しいものであると認知されはじめた事、スポーツ志向ドライバー達に「速く走る」「ギャラリーに注目される走りを見せる」などの純粋な目的があったことである。ではなぜそういったドライバー達は、前述したモータースポーツの世界に足を踏み込まないのだろう。
簡単に「敷居が高い」とか「環境の問題」と言われる。確かにその通りだ。ライセンスを取得する方法、競技に参加する方法は一般的に知られている事ではないから、何か閉鎖的で特別な印象が強く、敷居が高いように思わせるのだろう。まわりにモータースポーツ競技会に関わる人がいなければ、自主的に足を踏み込んでくる機会はなかなかないハズだ。ではそれが結論なのか? 話をわかりやすくするためにサーキットで行なわれるモータースポーツ競技会、ライセンスレースの話に絞り込もう。
念のためレースについて前置きしておくと、現状のレースは、サーキット走行会の延長戦上で開催され、自動車運転免許証を所持する事以外には参加資格を問われないノンライセンスレースと、本来レースと定義されてきたJAF(社団法人日本自動車連盟)の発給する競技用ライセンスを所持することを参加資格とするライセンスレースに分けられる。前者を開催するには特別な許認可を要さないが、後者を開催するにはJAFの許認可手続が必要となり、その成績はJAFの手によって保管され、公式記録としてドライバーの実績となる。レースに足を踏み込む多くのドライバーは、それぞれの才能を信じ、テクニックを信じ、必ず自分は頂点に立てると思っている場合が多い。だから苦しくても情熱を持ってレース活動を続ける。何が苦しいかといえば、多くの場合は経済的な問題である。レースの勝敗を決する多くの要因はレーシングマシンである。それぞれのドライバーが自分の才能、自分の持ち合わせるドラテクに自信を持って望んでいるのだから、クラッシュに見舞われたり、トラブルでリタイヤをしない限りは必ず自分が優勝できると信じているものだ。しかし継続的に行なわれているレース(ライセンスレースで使用されたことのない新型車両を使用する場合を除き、すでに開催実績が積まれてきたレース)の世界にはドラテク熟練、マシン熟知の強豪がおり、新参者には敗北という現実が待ち受けている。ならば新参者である、多くの腕自慢ドライバーたちの次なる選択はマシンを速くすること。経済的にゆとりがなくともマシンには次々と資金投入を続けざるを得ない。
いつしかレースはドラテクを競い合う場から経済力を争う場へと様相を変えて行く事になるのである。もちろん本当にドライバーの実力で勝利を手にする事もあるのだが、そのレースにおいて2位以下だったドライバー達は自分のドライビングテクニックを信じているわけで、優勝したドライバーの事をテクニックではなく、マシンが速い事で優勝したと思い込んでしまう傾向が慢性的にある。そうすると2位以下のマシンには資金が投入されて、優勝マシンよりも明らかにポテンシャルアップしたマシンが準備される。同じマシンで2度目の優勝を目論むディフェンディングドライバーは、同じ努力をしているにもかかわらず勝利を手にすることが出来なくなるのだ。すると次回はそのドライバーがマシンのポテンシャルアップの必然性に迫られることになる。その繰り返しがいつしかレースをドラテク競争から経済力戦争へと変えてしまうのである。この現実はエンジニア・メカニックの立場からすれば痛快なもの。自分が手を加えたマシンが速くなり、勝利を手にするのだから当たり前のこと。またはテクニカルイノベーションの本来の姿なのかもしれないから、それこそテクニック(マシン技術開発)の発展には欠かせないもので、まさにレースの醍醐味と見ることも出来る。しかし、いつしか才能あるドライバーであっても経済的破綻を恐れて、場合によっては本当に破綻してレース界を去ってゆく図式を招いてしまうことも多い。それゆえいつの時代も不景気はレース界を直撃するのである。