2001年9月14日施行

第34条

タイヤによって判ること、学ぶ事


 タイヤには、グリップ力でトラクションやブレーキ制動力などを路面に伝える以外に、サスペンションとしての役割もある。エア圧を高めにするとスプリングレートアップしたのと同じ効果、低めにするとレートダウンしたのと同じ効果が得られる。サーキットのピットで最も手早くステア特性のセッティングを施す手段となる理由だ。アンダーステア傾向の場合にはフロントのエア圧↓&リアのエア圧力↑、オーバーステア傾向の場合にはフロント↑&リア↓という感じ。ウェットなど滑りやすい路面コンディションではエア圧↓(ヘビーウェットでは逆に↑)したり、故意にグリップ力を落とすためにエア圧を大幅↑(サスペンション効果以外にタイヤの変形によって接地面積が減る)する場合もある。
 そんなタイヤの基本特性を理解していれば、逆にセッティングの状態やドライバーの乗り方を知る手掛かりにもなる。例えばビギナードライバーがクルマに乗っていて、アンダーステア、オーバーステアを把握できないレベルだった場合には、タイヤエア圧チェックは有効な手段となるから、必ずエア圧チェックを行なう。まず全力で5ラップ走ってもらってからピットイン。4輪のタイヤエア圧を均一に調整する。その後に連続して5ラップ走行してもらえば、クルマの状態やドライバーの癖などをタイヤエア圧から推測できる。フロント右前のエア圧が高ければ左コーナーでアンダーステア、リヤ左のエア圧が高ければ右コーナーでオーバーステアといった具合。横滑りする機会が多いとタイヤのエア圧は高くなるからだ。
 ベストなタイヤエア圧をサーキットで質問を受ける事が多い。タイヤの銘柄や装着する車種によって、設定エア圧は様々なので具体的な数字を特定するのは難しいが、スリックタイヤやSタイヤ、扁平率の低いタイヤなどは、タイヤのサイドウォール剛性が高いので比較的エア圧は低い。車重によって冷間時1・5〜2・0くらいの範囲。サイド剛性の少ないタイヤは2・0〜2・5くらいだ。温間ではそれぞれプラス0・5くらいが目安。スポーティなタイヤほどエア圧が低いのは、タイヤに剛性を持たせており(固いサスペンションと一緒)、エア圧を高めにしなくともタイヤのしなりが少ないため。逆にスポーツタイヤでない場合はエア圧を高めにしないと剛性が出せない。スポーツ走行時はタイヤ表面温度が上がるため、タイヤエア圧が低いほど温度上昇を防げるので、その点でもスポーツタイヤは都合よく出来ているワケだ。なおタイヤチョイスについては様々なマッチングの問題や好み、価格の問題があるので、あえて書かないことにするが、ビギナーにハイグリップタイヤはオススメできない。理由は機会ある毎に雑誌やHPに書いているが、クルマの基本特性を理解できないから。タイヤがグリップ限界を越えてから始めて分かるクルマの限界性能が多いため、ハイグリップタイヤでそれを経験するにはビギナーにとって危険なスピード領域で走らなければならない。何も理解できないままタイヤのグリップ力に頼ってスピードアップしてゆくと、エマジェンシーコントロールが全く出来ないままラップタイムだけが速いドライバーが誕生してしまう。残念ながらラップタイム至上主義のサーキット走行では、こういったドライバーが少なからず存在するのが実情。もちろんスパルタ教育で早い段階からハイスピードコーナリングを経験する方法も否定できないが、リスクが大きくドライバーの適性を選ぶ事が必要だ。面倒なのは理解できるが、是非基本から学んでもらいたいと願う。コントロール不能に陥ってクルマを壊してしまってからでは遅すぎるだろう。

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